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草深い山道を歩いていて、迷ってしまったのに気が付いた。 秋の陽は釣瓶落としだ。 あっと言う間に闇が来る。 今さら引き返す訳にもいかず、歩き続けるしかなかった。 やがて広い、薄野原に出る。 じわり、じわりと深くなっていく闇に目を凝らすと、小さな灯があるのが見えた。 「やれ嬉しや、一夜の宿を頼めるかも知れん」 私は笠を持ち上げて方向を確認すると、薄を掻き分け足早に歩き始めた。 見つけたのは、粗末な一軒の小屋。 「もうし、どなたかいらっしゃいませぬか? 道に迷うて難儀しております。もうし?」 ほとほとと戸板を叩き、中にいるであろう誰かに言葉をかけるが、応えがない。 「どなたもおいでではないのですか? もうし?」 「どちら様かえ?」 応えが返ってきたのは家の中からではなく、私の背後からだった。 驚いて振り返ると、女が一人、酒瓶を抱えて立っていた。 「嫌ですよぅ、そんな幽霊でも見るようなお顔をして。ちゃあんと足もありますでしょうに」 「あ、ああ、申し訳ない。てっきり、家の中においでかと思っておりましたので」 私は女に軽く頭を下げて謝った。 「で、こんな何もない処へ、どんな御用です?」 家の戸を開けながら、女が私に声をかける。 「実は道に迷ってしまったようで。よろしければ、今宵一晩の宿をお願い致したく」 「そんなに堅苦しくしなくったって、よござンすよ。しがない女の侘び住まい、何のお持て成しもございませんが、それでもよろしければ、どうぞお上がり下さいな」
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