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慌てて椀に視線を戻し、目に灼きついた肌の色を振り払うように、私は問いを発した。
「こんなあばら家漁ったって、盗む物なんぞありゃしませンよ」
そう言って女は酒を煽る。
「それにね、妾ぁこう見えても人を見る目だけは、あるんですよ。お坊様が悪党だってンなら、この世の大半の人間が悪党だって事になっちまいますよぅ」
そう言いながらも、私の方へチラリと流し目を寄越す。
私はまるで心の中を見透かされたような心持ちになって、ひどく落ち着かなかった。
「あら、お坊様をからかったりしちゃあ、いけませんでしたね。お気を悪くなさったら、ごめんなさいまし」
ふふ、と女は笑い、私は椀の中味を飲み干した。
「おかわりはいかがです? 一人住まいだってぇのに、つい、作り過ぎちまったんですよぅ。たまにしかないお客人、妾も楽しくってねぇ」
私にも酒を勧めてくるが、さすがにそれは固辞した。
「まあ、お坊様だって酒くらいはお飲みになるンでしょうに。ほら、般若湯とか申しますじゃござンせんか」
そう言って女は、くつりと笑う。
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