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「これ、どういうことですか」
部室に入ると深刻な雰囲気が漂っていた。尾上先輩がいつもより更に目を細めて座っているのに対し、机に手の平をついた会長が、大崎先生と向かい合っていた。
「俺にもわからん。それにもちろん、お前らがやったとは信じていない。だがな、それを証明することはできないんだ」
「篠宮、痴漢の冤罪みたいなものだよ。でも、相手にも論拠があるからこうなってるわけですよね?」
「ああ、その通りだ。あいつらは、どこからウチの学校の制服を手に入れたのか。それが説明できなければ、お前たちに責任を被せられるだろう」
一体なにが起こっているのかわからないまま、教室の中へ入っていくと、尾上先輩がこちらに気づいた。
「やあ、浮津くんに衣島さん。ちょっと困ったことになったよ」
「なにがあったんですか?」
「書店で捕まえた万引き犯たちだけどさ、彼らはこの学校の制服を着ていただろう? その制服の入手先が、僕からだって言うんだよ」
「それって、尾上先輩に罪を被せようとしてるってことですか?」
「そうそう。いや、困ったね」
困ったというか、それはいくらなんでも酷い言い訳じゃないだろうか。制服を貸して万引きまでさせた相手を、自分で捕まえるなんて普通に考えておかしい。
「聞こえてきた限りだと、制服の入手先がわからないから言い分が認められているみたいですけど、それだけでそんな疑いを掛けることができますか?」
「それができちゃうんだよ」
「どうしてです?」
「僕が元不良だったから。それも、有名なね」
そういえば、倉西や名波が言っていた。尾上先輩は二つ名が付くほどの有名な不良だったと。
「でも今は違うんですよね。それならおかしいですよ」
「過去はつきまとうものでね。相手の主張としては、『進路を控えた高校三年生だから、過去を清算するために評価の上がるような行為をしようとした。そのために、他生徒を脅して万引きをさせ、それを自ら捕まえた』っていう、自演説だよ」
僕には全く納得がいかない話だけど、尾上先輩の過去だけを知っていて今を知らない人ならば、信じてしまいそうな説ではある。筋だけなら通っているからだ。
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