第1章、古書店の店主は、

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ルーズベルグ古書店と看板を掲げた、その店の片隅で青年はんーっとうなり声をあげた。豚のような鳴き声はボロな古書店をグラグラと揺らしそうなほどの重低音だったが、客は一人もいないため誰も気にしなかった。何より、うなり声をあげた青年こそが、このルーズベルグ古書店の店主である。何をしようが彼の自由、彼の城、彼の世界なのだ。閑古鳥のなくほど寂れた古書店にはめったに客はこない、そのため日がな一日、店番としょうしてはお菓子を食べつつ、集めた小説を読みふける。まさに閑職、しかし、時折、ふらりとやってくる客は、この古書店の品揃えの多さに驚き、そして大量に買っていくため、生活にはこまらない。 その理由としては、古書店の本棚に無造作に並べられた書籍は、見るものが見ればかなりの価値のものがゴロゴロ、転がっているからである。ビブリオマニアと呼ばれる収集家には、喉から手が出るほど欲しいのだけれど、通いつめる客はほとんどいない。その原因は、今、まさに小説片手にうなり声をあげた青年にある。 でっぷりと突き出た腹、荒い呼吸音と鼻息、太い二の腕、顔はまん丸のそばかすだらけ髪の毛は茶髪でくるくるとカールしている。名をデイブ・アレナンデス。二十歳、独身。 店の雰囲気を一気にぶち壊す、この太った青年の存在が、客足を遠のかせている原因だった。妙な存在感を放つ彼と、一緒にいるのは、圧迫感がすごく、時折、奇声やうなり声をあげるので、客のほとんどは怖くて店内にいられないのだ。とある金持ちのお嬢様は、この店を買い取ろうとしたらしいが、彼の存在を知った途端、失神、買取を諦めたらしい。いわく、「あのような生物を世に放つことは、この世を滅ぼしかねない重罪ですわ。宝物に手に入れられないのは残念ですけれど、あれを閉じ込めておくにはちょうどよい、檻でしょう」とのことだった。ついでに言うと、その後、諦めきれなかったお嬢様は、店の買取は諦めたが、書籍の一部を買い取り、入念に殺菌と消毒をしたらしい。 まぁ、デイブとしては、店を買い取ろうとしたお嬢様のことなんて知らなかったし、本人は笑い声をあげているつもりなのだけれど、もう終わったこと今更、掘り返したところでどうにもならない。儲かっただけのことである。 「なんで、なんで、こういつもデブってこんな扱いなんだろ」 とデイブは、小説を握りしめ呟いた。彼が読んでるのは、パニックホラー小説、
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