18人が本棚に入れています
本棚に追加
私は幼い頃から周りの女の子達のように、恋話に盛り上がることができなかった。異性を好きになるという感情に本気になったことがなかったからだ。例え話に加わったとしても、冷静にそんな女の子達を見つめている自分がいるだけで、時に「菜乃ちゃんは好きな人とかいないの?」と問われても、「何故それを言わなければならないのか」と、ものすごく心を閉ざしたのを覚えている。素直に「この子だよ」と言うだけの自信もなければ、好きという感情を表すことに、抵抗と恥ずかしさを感じてしまう。これは自分でもどうすることもできなくて、結局、周りの女の子達から、「変わった子」というレッテルを貼られることになり、自分でも、「私は、あなた達みたいに軽い女じゃないのよ」なんて、ちょっと蔑んで見たりするから、増々距離ができてしまう……でも、今思うとそんな自分は、すごく損をしていたのかもしれない。恋をするって感情に素直に身を委ねることができなかった自分は、恋をするときめきもわくわくも感じることがなく、友達同士でその気持ちに共感したり、一緒に楽しんだり悲しんだりしながら、深く心を通わせる経験がなかった自分は、本当に可哀想だったなと、今そう素直に思うことができる。でもそれは、私が本当はすごく臆病で自分に自信がなかったからだ。恋をすること、恋をみんなで共有することに無意識にブレーキを掛けていたんだと、今更ながらにそう思うことができる自分の変化に、私は驚いている。……だから私はついにブレーキを外し、「そうだよ」って言ってしまおうかと思った。「私は田中を好きなんだよ」って。でももし果歩ちゃんにそう話したら、私はきっと恥ずかしさのあまり訳が分からなくなりそうだし、話ながら変に興奮して、絶対に引かせてしまうと瞬時にそう判断した。
(ああ……私ってやっぱり恋をするのに向いてないな)
と、もうひとりの自分がそんな自分を冷静に見つめている中で、私は一呼吸置くと、果歩ちゃんにはっきりと言った。
最初のコメントを投稿しよう!