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「先生。俺、自分の絵の出品やめる。俺の代わりに宮原の絵を出してくれない?」 「はあ? ちょっ、何言ってるの? 宮原さん実力で出品できると思うの? 冗談じゃないわ!」  松浦は驚きに目を見開きながら、私にはかなり酷なことをはっきりと言った。 「何だよそれ。宮原には実力がないってこと? そんなの、生徒一人一人の実力を引き出すのが教師の役目なんじゃないの? 何でそう簡単に決めつけるんだよ。……ひっでーな。先生って」 「田中君……宮原さんの絵にはまだ安定感と説得力がないわ。美術展の出品するほどまでには正直至ってないのよ。……ねえ、一体どうしたの? 何でそんなに宮原さんの絵にこだわるの?」  松浦は納得できないというような顔で、出窓に腰掛けている田中に近づいた。ブラインドが半分以上下げられているこの部屋は、今日みたいな梅雨の晴れ間でも薄暗くなるのは当たり前だ。ただ、こんな薄暗い部屋に先生と生徒が二人きりでいるということは、やっぱりかなり良くないことだと思うし、少し異常だ。  私はこの状況をどうしようかと悩んだ。このまま気づかれないようここに居続け、二人のやりとりをこっそり観察してみようかと。でも、ばれた時の気まずさ考えると、やっぱりここから離れた方が無難だろうし……否、やっぱり私は、何故二人はこんな薄暗い部屋に二人きりでいることに何の抵抗もなく、こんなにも自然なのか? ということがどうしても気になる。それはつまり、田中と松浦は、知らない間に先生と生徒の関係を越えた仲になっていることを意味しているかもしれないから……。 (でも、まさか、そんなことあるわけないよ)  私は急に不安になって、自分の心臓をぎゅっと押さえた。
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