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 私は授業中に、あの時の田中と自分のことを思い出す。田中は私が唯一「話せる」男子だ。何故か?……理由など分からない。ただ、気軽に、緊張せずに話せる「男子」なのだ。田中と話していると、自分の言葉が不思議と魅力的に響き、「自分と会話をしていても相手はつまらないんじゃないか?」といった不安や自己嫌悪みたいなものを感じずに済むのだ。だから私は、田中と話している時の自分が好きだったりする。私にとって田中は、自分の存在理由の証明みたいなものだなんて言うとかなりオーバーだが、それぐらいとても貴重な存在だったりするのだ。  でも、おかしなぐらい他の男子とは駄目だった。何を話していいか分からず、顔が引きつり、言葉がどもり、どうしようもなく不自然になってしまう。これまた唯一の私の友人、果歩ちゃんによれば、田中みたいなのが何を話していいか分からない「男子」だと言う。だから時々果歩ちゃんに「菜乃が羨ましい」とまで言われるから、まったくこの世は不思議だと思う。 「どうして?」  と、私は前に果歩ちゃんに尋ねたことがある。果穂ちゃんは中学校からの同級生で、私のたった一人のとても貴重な友人だ。色黒で背は高く、顔が小さくてとてもスタイルが良い。性格はさばさばしていながらも、几帳面なしっかり者で、尚且つ、周りをよく見て素早く気遣う優しさと賢さは、とても尊敬に値する私の自慢の友人だ。 「だって田中君てさ、不思議な魅力があるじゃない? 何考えてるのか知りたくなるんだよね」 「ふ~ん。そうなんだ。多分、頭ん中絵のことだけだと思うよ。まるで取り憑かれたように絵を描くんだよ。なんか気味が悪いよ。果歩ちゃんも今度見に来なよ。引くよ。絶対に」 「ええ? いいよ~。恥ずかしいし。でも、菜乃は田中君とならどうして話せるの? アホな男子と話してる方が緊張しなくない?」 「何でだろう? 絵を描くっていう共通点から話すようになっただけだけど。不思議なんだけど本当に自然と会話ができるんだよね」  私はそんな風に言われて悪い気がしなくて、少しの優越感に心が高揚してきて、隣の果歩ちゃんにそんな自分を気付かれないように、いたってどうってことない態度でそう言った。多分、鼻の穴は開いていたと思うけど……。
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