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田中は結構女子に人気がある。謎めいてるとか、憂いを帯びているとか陰で言われていて、その辺にごろごろしているアホな男子とは違う雰囲気を醸し出しているらしい。確かに、それは私にも良く分かる。田中はやっぱり魅力的なのだ。でも、私がそれを意識してしまうと、私達のこの気の置けない関係が崩れてしまいそうで怖くなるのだ。私にとっての唯一話せる貴重な男子がいなくなってしまうというのは、つまらない高校生活を送っている私にとっては大きな打撃なのだ。だから私は、極力田中を男として意識しないようにしている。
そう。……この間たまたま隣で一緒に絵を描いた時なんか、ぶつぶつと独り言を言い始め、完全に自分の世界に入ってしまうところなんて本当に奇妙で少し引いたぐらいだ。
そうやって私は、そんな田中の痛い部分を知ることで、自分の恋の感性を自然と鈍らせているのだ。
しかし、本当にあの時の田中は、私が話しかけてこちらの世界に引き戻さなければ、完全に異世界の住人となってしまいそうな勢いだった。
(異世界……か)
私は、その言葉に反応し、ふっと窓の外を見た。どんよりと曇った空から変わらぬリズムで雨が落ちてくる。ぼやけた葉っぱの緑と灰色の空とのコントラストは、暗い配色だけど目に優しくて。校舎を叩く雨の音は、見えないシェルターに包み込まれているような満たされた気分を与えてくれる……私はこの雰囲気がたまらなく好きだった。
(あ、もしかしたら、田中も私と同じようなこと考えてたりして)
私は「異世界」という言葉から、ふっとそんな思いに捕らわれた。でも、
(田中、まだ怒ってるかな)
結局。さっきの田中への失言をすごく後悔していることに、私の思いは早変わりしたのだった。
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