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お兄ちゃんと向かい合って座り、急いでいる私は事情説明を手短に話した。
「ということで、お兄ちゃん服貸して」
「おう、わかった。服貸してやるよ……ってわかるか!!なに理由はぶいてんだ!意味わかんねぇよ!」
「え?私がお兄ちゃんの妹の伊織だってことはわかるでしょ?」
「あ?当然だろ。お前の兄貴だし」
「それじゃあ、なにも聞かず服貸して。私急いでるの。律君とのデートに遅刻するわけにはいかないから」
「いやいやいや!説明!俺意味わかんないまま、お前に服貸すの嫌だ!説明!」
「あぁ、もう!説明できるほど私だって理解してないの!!でもたぶん!たぶんだけどなんか神様が実験してて私のとこに落として、それで朝起きたら男になっててうえええええん!ありえない!他の日だったらよかったのに!ばっかやろう!うぇぐっ……ぐずっ」
説明途中から泣き出した私に、やわらかいティッシュを華麗に渡すお兄ちゃん。
「ぐずっ。全然きゅんとしないけど、ありがとう」
「うん、なんか意味わかんねぇけど。とりあえずお前に貶されたことだけはわかる」
「お兄ちゃん」
「なんだ」
「服貸して」
涙を拭いたティッシュを丸め、ごみ箱に投げながら伝える。
「はぁ……しかたねぇな。ちょっと待ってろ」
ため息を吐きながら、クローゼットを開き服を準備してくれる。
「あー、お前ちょっと立て」
「ん」
言われた通り立ち上がり、お兄ちゃんを見る。
「あー、今のお前ならこれが似合うと思う」
お兄ちゃんは私に黒シャツと黒のパンツ、そして青のショールカラーカーディガンを貸してくれた。
わお、なんか全体的に黒っぽい。
けど――。
「お兄ちゃんありがとう。急いで着替えてくるね!」
「おう」
お兄ちゃんの部屋から軽快に出て、自室へと戻る。
早く着替えて、待ち合わせ場所に行かなきゃ。
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