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約束の時間三分前に、待ち合わせ場所に到着した。
そして周囲を見渡し、彼の姿を探す。
意外にも早く彼の姿を見つけることができた。
「ふふっ。今日も真っ黒だなぁ」
噴水の前に立つ彼は、黒シャツに黒スキニーといった黒色スタイルだ。
かっこいいなぁ、律君。
そう思いながら、足早に近づく。
「おまたせ、律君」
「……」
いつものように声をかけると、律君の綺麗で切れ長の目が見開かれた。
「……あ」
律君のかっこよさに見惚れて、忘れていた。
……自分が今男だってことを。
「……伊織、か?」
律君が恐る恐る私の名前を口にする。
いつもの律君と違うなと思いつつ……あぁ、それだけ驚いてるんだなと納得する。
さて、どうしたらいいだろうか。
説明するにも……どうして自分が男になったか知らないわけで。
うーん、お兄ちゃんには現実逃避でした妄想を適当に話したけど。
でもなぁ、律君にその話で説明するのは私の鋼鉄のハートが粉々になるくらいのダメージが……。
「えっ!うわっ、ちょ!!律君!?」
突然律君に腕を引っ張られ、現実に連れ戻される。
そして律君はなにも言わず、歩き出した。
私は腕を掴まれたままなので、歩き方が変である。
あぁ、でも今は歩き方について考える場合じゃない。
律君だ。今、律君がどんな顔をしているかが大切だ。
どうしよう……。
嫌われたかもしれない。どっきりで誰か別の人が来たとか、デートが面倒になって誰か別の人……しかも男が来たと思ってるかもしれない。
あ、でもさっき私の名前を呼んでくれたから大丈夫かな。
「伊織」
「あ、はい!」
人通りのない静かな公園に入ると、くるっと私に向き直り――。
そして律君は私の頬に手を添えた。
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