桜 伊織―極短編終了―

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「やっぱりお前のほうがでかいな」 「……え?」 「身長。さっき見たとき思ったんだけど、男同士が突然近づいたら変な目で見られるだろ」 「え、いや、あの……」 身ぶり手ぶりうるさく、律君の前でわたわたと慌てる私。 対して律君は変わらず、いつも通り無表情に近い顔だ。 「お前、どうして男になったか理由知らないんだろ」 「え、あ、うん知らない」 「だったら聞かれると困るだろ。俺はお前の根っこのとこが違わなきゃ、性別とか気にしないから」 「うん……ありがとう」 なんだか律君に心を読まれたみたいだ。 もう、なんかぶわっと泣きそうになる。 男になってしまった私に、いつもと変わらない律君。 そんな律君に安心した。 嫌われなくてよかった。 自分が今、男だとわかってても涙がぼろぼろと零れ落ちる。 ……あぁ、気づかないふりしてたけど、やっぱり不安だったんだな。 溢れ出る涙が止まらない。 「あー、よしよし」 頭を撫でる律君の手がとっても優しい。 涙を拭くのを止めて、律君の顔をばっと見つめる。 そして――。 「律君大好き……!」 「俺も。伊織のこと大好き」 ………………なんて破壊力だ。 今の微笑みで、あんなに溢れ出て止まらなかった涙が引っ込んだ。 「あ、泣き止んだ。ほら、にこー」 両頬をむにっと掴み、横に伸ばす律君。 律君。横に伸ばしても、笑顔にはならいよ。 「律君もにこー」 律君の頬に触れて、私も横に伸ばす。 はっ。美形はなにをしても、美形だった。 にへー、かっこいいなぁ。 ……たぶん他人から見たら、相当変な風に映るんだろうなぁ。 .
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