画家と農夫

3/22
前へ
/427ページ
次へ
杲杲と照らされた白い壁、 よく耕された黒い土、 茶色に枯れた草… その真ん中に、彼は立っていた。 「よお。」 声を掛けると、およそ三十とは思えない少年のような顔をパアッと明るくして、 「よお!」 と手を振って、こちらへ歩いて来た。 「どうだ?」 いつものように握手をしながら聞くと、 「どうだろうね。」と答える。 いつの頃からか、これが二人の挨拶になっている。 「これから掘り出すところなんだ。」 畑を振り返って俺と横並びになった彼は、少し緊張した面持ちだった。 俺は黙って、彼の腰の辺りをトンと押してやる。 そのまま 再び畑に歩み出した彼は、わざわざ一番奥まで行き、 枯れた株を取り除くと、一心に掘り始めた。 しかしすぐに手が止まって… 肩より上で右手をパタパタと振ると、 あとは鼻唄まじりに掘り続け、天井を仰いで声を上げた。 「女の子だったー。」
/427ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加