8人が本棚に入れています
本棚に追加
/61ページ
まどろみの中でかんなはふわふわとした感覚を味わった。
それは昔味わった事のある感覚で心地良いものだった。
(なつかしいな……)
かんなはゆらりゆらりと揺れているその感覚を愛おしく思う。
暖かくて優しい、その感覚をもっと味わいたいと腕をぎゅっと抱き寄せると急にカエルが潰れた様な変な声がした。ゆっくり目を開けるとそこにはギブギブ!と騒いでいる日向の姿があった。
「ぶふっ…!!日向首絞まってんぞー!変な事考えてたんだろー」
「ぐふっ! うるさ…いててて!かんなって寝相悪いからしょうがないだろ!」
(……!)
かんなは初めて自分が日向におんぶをされている事に気がついた。
日向はさっきまでの泥まみれの格好ではなくワイシャツ姿で腕まくりをしていた。
日向の横には太一がいて日向の荷物とかんなの荷物を持って日向をゲラゲラ笑っていた。
(……日向の背中…暖かくて気持ちいいな)
「ん?おーかんな目覚めたかー?」
「………!!」
「ああ、かんなおはよう」
太一と目が合ってしまいかんなに気付く。
かんなは日向の背中に顔を摺り寄せようとしていたため太一に見られたと思い込み顔が熱くなる。
「かんな昼休みから寝てんだもんなー、もう田植えは終わったぜー」
「え!? 私そんなに寝てたの?」
「まぁね、でも終わったから気にしなくていいさ。」
「かんなの分まで日向が頑張ってたからなー、さっきまで体が痛い痛い言ってたのにかんなをおぶって帰る元気はあるん…」
「黙れ太一」
「あはははは!!」
「日向…ごめんね!すぐに降りるから…!」
「俺は大丈夫だけど…かんなは平気?」
「……え?」
「体力限界だったんじゃないか?」
「ううん、大丈夫だよ!心配してくれてありがとう!」
「そうか」
「日向すげー焦ってたもんな、木陰でかんなが倒れてたとき」
「……そ…そんな事今言わなくてもいいだろ!」
(……日向…。)
かんなは太一の言葉で胸の中が熱くなった。
日向が心配してくれた、その事で頭がいっぱいになる。
ぼーっとしているかんなに日向はまた心配の声をかけるがかんなは急いでそれに反応し名残惜しいが日向の背中から降りた。
ちょうど太一の家の近くまで歩いてきたので太一に持ってもらっていた荷物を日向はお礼を言い自分とかんなの分を持つと太一は走って帰っていった。
それを見届けた日向とかんなはゆっくりと歩き出した。
最初のコメントを投稿しよう!