プロローグ

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 同情ではなく共感。御代澪の苦しみが容易に理解できた。  例えば彼女がそうであったように、澪も一部の同級生からイジメられていた。  いつまでも町や周囲に溶け込めない澪は、元々内向的な性格だったのも相まって友達があまり作れずに、そういう環境が澪ならばイジメても問題はない、という空気を作っていた。  近頃は暴力の割合も増えてきていて、今日も複数の人間から腹部を殴られたばかりだった。  薄れゆく意識の中で、このまま殺されるのかもしれないと思ったほどである。  だからこそイジメの延長で殺されてしまったという御代澪が、酷く自分と重なって見えた。  もしかして本当にこれは自分の――と自嘲気味にそう思った瞬間だった。  澪の眼球はそのスレッドが立てられた年月日を見て凍り付いた。  そのまま頭を働かせて本日の日付と西暦を確認する。今日は6月20日で、西暦は2015年だ。 「……嘘」  自分の記憶が狂っている可能性も考えてパソコンとスマートフォンもチェックしたが、間違ってなどいなかった。  今日は間違いなく2015年の6月20日である。それならこのスレッドが示す年月日は何なのだろう? どうして来週を指し示しているのだろう。  掲示板自体にバグが発生しているのかもしれないと考えた澪は、他のスレッドを覗いてみたが、バグっているのは件のスレッドだけのようである。  悪戯かもしれない。そう思った。  けれども果たしてそんなことが可能なのだろうか。確かにスレッドは誰でも立てられる。  でも年月日を弄ることは難しいのではないだろうか。  パソコンが得意なわけではないがその程度のことはわかる。  それにそもそも可能だとして、こんな手の込んだ嫌がらせをする必要はないだろう。  澪が自分の名前を打ち込んだのは、単なる気まぐれだ。  こんなことをしていなければ、あるいは一生このスレッドの存在は知らなかったかもしれない。  それでは労働に対する対価が、あまりに低すぎる。  でも――澪は自分の背中の産毛が粟立つのを感じながら、マウスのホイールを回した。  でも、もしも澪をイジメる彼女たちの仕業でないとするのなら、数百にも及ぶレスがついたこのスレッドはいったい何なのだろうか。
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