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ヴィタはマイザーの言葉に激昴した。
「いま大人になれって言った? あなたに大人になれなんて言われたくない! 宇宙服はいつも脱ぎっぱなし。火星人に家のことが出来ない人が多いっていうのは本当ね。あなたは違うと思っていたのに。どうしてそんな簡単なことができないの?」
マイザーは黙った。ヴィタは追い討ちをかける。
「都合が悪くなるといつも黙るのもイヤだわ。どうして素直に非を認めないの?」
マイザーは戸惑いながら言った。
「君こそなぜいつも僕の批判ばかりするんだ? それこそ金星人らしいよ。どんなにこっちが尽くしても文句ばっかり。もう嫌になる。今日だって1日働いてくたくたなんだ。勘弁してくれないか」
ヴィタは言った。
「じゃあいつ言えばいいの? あなたは理解する気もないのよ。私の気持ちなんて……」
ヴィタの青い瞳がみるみるうちに潤んで涙が一粒落ちた。マイザーは目をそらす。
シンとした部屋に宇宙テレビの楽しげな音楽だけが響いた。
ヴィタはテレビを消して言った。
「もう別れましょう」
マイザーは黙った。
そしてマイザーは思った。5年前出会ったころのヴィタはこんなんじゃなかったのに、と。
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