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先生の未発表小説の一部分を思い出した。
歳上の女性が激辛中華料理で青年をもてなす場面。
香辛料で煮詰めた上海蟹を手掴みで食べて、汚れた指とヒリヒリした舌で汗ばんだ体を愛する。
二人は熱いね、熱いねと笑いあっていた。
そろそろ、進展のない関係をなんとかしなければ。
私は、ある可能性を振り払えず
冬季限定の二つの味を手に取った。
その週末。
私は、ネットで調べた通り、蓋をほとんど開けずにお湯を注ぎ、二つのカップラーメンを25分放置した。
ずっしりと重いそれを盆に乗せ、先生の前に置く。
先生は、ニヤリと笑って一つを手に取り、部屋を出た。
残された私は、もうひとつのラーメンをじっと見つめていた。
先生が戻ってきた。
手には何も持っていない。
「素晴らしい出来だった。
『チリコンカン担々麺味』
良かったよ」
私は、お盆の上のカップ麺を掴んで、
先生の顔にぶっかけてやった。
ボロボロ涙がこぼれる。
「辞めさせていただきます!!!!!!」
『クラムチャウダーシチュー味』の滴が手にかかった。
気持ち悪い。
気持ち悪いけど。
コートとカバンを掴んで玄関まで走る。
一刻も早く離れたかった。
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