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先史以前ともなれば物体として遺されている物は尚更少なく、平松が錦戸の研究に興味を持つのは当然の成り行きであったのかも知れない。
その錦戸本人を平松が見た事があるのは、錦戸の講義を録画したビデオであった。
だからすぐには声で思い出せなかったのである。
平松も名の通った考古学者であり、面識はなくとも、錦戸が平松を知っていてもおかしくはない。
しかし、と平松は頭の中にある違和感に意識を張り巡らせる。
錦戸に関するもっと近い記憶があったはずだ。
丁度一週間前の新聞の片隅、「生物学界の権威、錦戸欄成博士が交通事故に巻き込まれ入院」。
平松には、確かにそのニュースを目にした記憶があった。
だが、どういうわけか錦戸欄成は今、生気に満ち溢れた瞳で自分に握手を求めて来ている。
平松は錦戸の手を握り返して挨拶を交わすと、振り返って戸惑いながらも高杉に尋ねた。
「私も事故で入院という事になるのでしょうか?」
その質問を聞いた高杉は一瞬目を丸くしたが、その表情はすぐに笑みに変わる。
「流石は平松教授。理解が早くて助かります。ただ、平松教授の場合は持病の発作という形をとらせていただきます」
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