Lost Christmas

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平松は諦めたように、小さく溜め息を吐いた。 人目をはばかるようにして平松がここへと連れて来られたのは、この為だったのである。 つまり、一度ここに足を踏み入れたら一定の期間は帰れないという事であり、これから目にする物はそれだけの物であるという事であった。 この国のトップが裏で動いているのだ。 平松が帰りたいと言った所で、簡単に帰れるはずもない。 黒いスーツの男達が平松の家を訪れた時から、平松には選択の余地など存在していなかったのだ。 秘密の地下トンネルを易々と平松に見せたのが何よりの証拠である。 やろうと思えば、目隠しをしてここまで連れて来る事も可能であったはずだ。 それが溜め息となって、平松の薄い唇から漏れたのだった。 「そう悲観する必要などないですよ。あれを見れば他の事など吹っ飛びます。ささ、あちらへ」 錦戸が嬉々として平松を壊れた壁の方へと誘導しようとする。 先程は生気に満ち溢れていると感じたが、どうやら様子が違い、錦戸の脳内ではドーパミンが異常に分泌されているようだ。 錦戸ほどの人間がこれ程までに興奮する物とは一体何なのか。 ランランと輝く錦戸の瞳を見て平松は微かに恐怖に近い感情を覚えたが、当然、今の平松には「見ない」という選択肢など存在しない。
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