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平松は胸のポケットからハンカチを取り出し、汗ばんだ手のひらを拭った。
その場所までは、まだトンネルを10メートルほど歩かなければならないが、どうやら崩れた壁の向こう側は掘り返してあるようで、中の空間がここからでも僅かに見える。
壁の中にはかなりの広さの空間が広がっており、重機が投入されているようであった。
やはり、と平松は胸を高鳴らせる。
このような横穴での発掘は珍しいが、この重機の使い方は、遺跡の発見によるものに違いなかった。
エレベーターで降りて来た為に正確な深さは分からないが、これほど深い場所での遺跡の発見は世界に類を見ない。
二十世紀も残り一週間にして、世紀の大発見が目の前にある。
真っ赤な包装紙に結ばれた緑のリボンを丁寧にほどくように、平松は一歩、また一歩と歩みを進める。
残り5メートル。
4メートル。
3メートル。
足元には崩れた壁の細かい破片や砂が散らばり、それらはレールの上にまで乗り、ライトに照らされてキラキラと輝いている。
鼓動の高鳴りは最高潮を迎え、頭頂部を透明な輪っかが締め付けるような感覚がやってきた。
2メートル。
1メートル。
振り向いた平松は無言のまま立ち止まり、目を見開いて『それ』を凝視した。
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