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『それ』が何かといえば、間違いなく化石である。
小学生でもそう答えるに違いない。
むしろ、小学生ぐらい頭が柔軟である方が容易く受け入れられるのだろうか。
地中から掘り出された巨大なそれは、霊長類特有の頭部の発達した丸い頭蓋骨をしており、まるで胎内にいる赤子のように背を丸めて足を折り畳み、小さくなっている。
だが、骨格を見れば赤子などではない事は一目瞭然だ。
折り畳まれた足を真っ直ぐに伸ばせば、全長は十五メートル近いかも知れない。
これだけならば巨人の化石の発見と言えなくもないが、それは霊長類ですらあるはずがなかった。
それを誇張するかのように、その背中には骨だけになった巨大な翼が畳まれていた。
「天使の化石……?」
周りの誰にも聞こえないぐらいの小ささでそう呟いた瞬間、平松の頭の中に音楽が鳴り響いた。
今までに聴いた事のないほど、美しい旋律の音楽である。
平松はそれを音楽と認識したが、もしかしたらそれは音楽と呼べるものではないのかもしれない。
だが、この頭の中に鳴り響く旋律を表現するものを、平松は音楽という言葉以外には持ち合わせていなかったのだ。
少なくとも、平松が今までに聴いた事のある楽器の奏でる音ではなかった。
ただ、ただ、その旋律は美しく、いつの間にか平松の双眼からは、熱い涙が溢れ出していた。
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