Lost Christmas

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平松紀之は考古学者であり、帝東大学で考古学の教鞭を取る一介の教授である。 学会に呼ばれる事はあっても、国会議事堂に呼ばれたのは初めてであった。 それも、ずいぶんと回りくどいやり方で、他の者に気付かれないようにしてであった。 平松の両脇にいる黒いスーツの男達は何も語らないが、恐らく政府要人を護衛するSPであろう。 平松は大学から帰宅して、家の玄関前でこの男達に身柄を拘束されたのだ。 始めはヤクザかとも思ったが、ヤクザがただの教授である平松を拉致した所で何の得もなく、その心配は男達から手渡された一通の手紙に打ち消された。 手紙の差出人は、高杉龍平現内閣総理大臣だったのである。 手紙の内容はほとんどこの件に触れる事はなく、拘束への謝罪と、平松の力を貸して欲しいというものであった。 だが、何に関して力を貸せばよいのか等は一切書かれていない。 いくら頭を働かせても、総理大臣に力を貸せるような事は平松には思い付かなかった。 手紙が偽物なのではないかという疑いもあったが、平松が今国会議事堂の地下にいる事が、あの手紙が本物であった事を何よりも証明している。 どれぐらい地下に潜ったのだろうか。 ようやく、小さくチンという音を上げてエレベーターが止まった。
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