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鉄のドアがゆっくりと開く。
そのドアの隙間から見えて来たものは、駅でよく見るプラットフォームであった。
そのプラットフォームに黄色いヘルメットを被った一人の男が立っている。
エレベーターのドアが開いたのを見ると、その男は笑顔で平松を迎えた。
「高杉龍平総理大臣……」
平松は呆気に取られたように男の名前を口にした。
平松がエレベーターから降りると、高杉は平松の手を両手で握り、「平松教授、クリスマスの夜にご足労をおかけいたしました」と笑顔で握手をした。
平松は慌てて「こちらこそ」と訳のわからない返事を返す。
テレビでは毎日のように見ている顔であったが、実際に目の前にすると、そのオーラが感じられる。
若い頃にやっていたラグビーで鍛えられた身体には、今は脂肪が付いてはいるが、太っているというよりはガタイが良いという表現の方が合っている。
優しそうな笑顔ではあるが、その目の奥には力強く鋭い眼光が見てとれ、今はヘルメットで隠れているが、その下にはきれいに黒く染めた髪がポマードできっちりと後ろに流されているはずだ。
「これから目にする物は、一切他言無用でお願いします」
高杉は柔らかくも反論を許さない声でそう言った。
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