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湿った匂いと鉄が擦れ合う音の充満する暗いトンネルの闇の中に、どこまでもトロッコが潜って行く。
鉄道のレールに多少の緩いカーブは見られるが、トロッコが放つオレンジ色のライトに映し出される風景は、走り出してから全くと言っていいほど変化はない。
どれぐらい移動したのだろうか、平松は意識せずに自分の左手首を見て腕時計を付けていない事を思い出した。
エレベーターに乗り込む前の身体検査で、腕時計や携帯電話は取り上げられている。
これから行く目的地の距離や方角を知られない為かも知れない。
だが、トロッコに乗ってから、もう一時間近くは経っているはずだ。
ここで平松は、ようやく一番の疑問に気付いた。
この国のトップである現総理大臣が自分の目の前にいる驚きと、実際に存在した国会議事堂の地下にある政府要人専用のプラットフォーム。
この有り得ない二つの驚きが平松の脳を支配し、誰にでも思いつく根本的な疑問に至るまでに時間を要したのだ。
なぜ、トロッコなのか。
このレールは明らかに鉄道を走らせる為の物であり、トロッコに乗っていると必要以上にトンネルの天井が高い。
実はまだ車両が完成したばかりで、高杉総理大臣が自分に見せたい物とは謎の車両なのだろうか。
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