第6章

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   迷っているわけじゃない。 ただ、ちょっと緊張してるだけ……。 だから、大丈夫。 「よし!!」とぺチンと頬を叩いて更衣室をあとにした。 到着したばかりのエレベーターに乗り込んで一階まで降りる。 会社を出て少し足を進めたところで、営業から戻ったコウくんに、バッタリ会ってしまった。 「……ぁ」 このタイミングでコウくんの顔を見たくなかったな。 若干の気まずさを感じながら、すれ違いざまに挨拶する。 「お疲れ様です」 「お疲れ」 と、コウくんが足を止めてわたしを見た。 「どっか旅行にでも行くのか?」 「……違うけど……」 心の中を見透かされたくなくて、目を見ずに短く答える。 そんなわたしに、コウくんは能天気な言葉を残して、背中を向けた。
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