第1章

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   「小泉、資料出来た?」 わたしの斜め前の席、所謂お誕生日席で電話中のコウくんは、話の合間にチラリとわたしに視線を走らせた。 「……!!」 不意に目が合って、ドキリとする。 一緒に働いて数年経つというのに、未だに上司の顔のコウくんに動揺してしまうのだ。 「えっと、もう少しで、」 慌ててパソコンに視線を戻すけれど 「ええ、はい。前回のプレゼンでは」 コウくんは、わたしの返事を待たずに席を立った。 時間が無いのか、携帯を首に挟んだまま、器用にスーツのジャケットを羽織ると、わたしに片手を差し出した。 どうやら資料を渡せと言いたいみたい。
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