見える彼女と見えない僕の小話

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「あーあ」  視界の隅に、尻尾を力なく左右に振り回す少女がいる。手元ではコロコロと手渡した球体を転がし、時間を無為に消費している。時間を無駄にしている点に関してはボクも同じなのだが、あまりにも気だるげな少女の行動に気が引けて、先ほどまで読んでいた書物はうつ伏せになっていた。  手持ち無沙汰なのがよくわかる彼女の尻尾。揺れたり萎れたり伸びてみたりと、何かはするが、その行動全てに明確な意味など無さそうだ。  ふとチャイムの音が響く。彼女の表情が一気に晴れやかなものになり、耳が張りを取り戻す。尻尾をしならせ、ランタンの近くに置いてあったフルーツへと手を伸ばす少女。 「やった、やった、ご飯の時間」  先ほどまでの気怠そうな態度はどこへやら。喜々とした表情を浮かべる少女は、尻尾をしならせるように振り乱しながら、フルーツへとかぶりつく。  瑞々しい果実である。ぽたぽたと果汁が体へと垂れてくる。その無邪気な雰囲気に、思わず笑みがこぼれる。 「何考えてるの?」  フルーツは口元のまま、彼女は怪訝そうな表情でこちらへと問いかける。先ほどまで躍動していた尻尾は、今は彼女の感情を示すかの如く、クエスチョンマークを形作っていた。 「え? ああ、美味しそうに食べるなぁと思って」  率直な感想を述べたまでだ。 「……ほんとうにそのことを考えてたの?」  さらに怪訝になる彼女。尻尾の動きが止まり、彼女の耳と尻尾が文字通り聞き耳を立てるように、こちらへと向く。 「本当だよ。嘘ついたってしょうがないし」 「……そう。別にいいけどさ」  そっぽを向き、再びフルーツを食べていく彼女。相変わらず聞き耳はそのまま、尻尾も動きを止めたまま食べ進めていく彼女の視線は、ちらちらとこちらを気にしている。
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