第1章

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「やっぱり、新車はいいよな。この新車独特の匂いとかさ、堪んねーよ」 「はいはい、分かったから。ちゃんと前向いて運転してよね」  日付も変わろうかという深夜。一台の車がヘッドライトを皓々と光らせて、夜道を駆け抜ける。  車内には、一組の男女の姿がある。 「ねえ、ところで、どこまで行くの?」  助手席の女が、嬉しそうにハンドルを握る男に声をかけた。  元より、目的があって出かけたドライブではない。あてもなく走り回って、女の方はすっかり飽きてしまったようだ。  車はどうやら一般道を外れ、山の方に向かう道に入ったように思えた。乏しい光量で確認できるだけでも、周囲の様子は違っているのが分かる。 「そうだなぁ。このまま行くと、山ン中だし」  土地柄、そうそう高い山でもない。二、三時間も走れば、越えられるだろう。 「ただ走ってんの、いい加減に飽きちゃったよ。行くあてもないなら、もう帰ろうよ」  女の方は明らかに不機嫌になっている。 「まあまあ、そう言うなよ。せっかくの新車なんだしさ。どっか心霊スポットとか探そうぜ」  せっかくの気分を壊されたくないのだろう。どうにか行く先を見つけて、もう少し走ろうと彼女に提案する。 『心霊スポット』という単語を聞いて、女の方もちょっとは気持ちが動いたようだ。しぶしぶといった感じで、男の案にうなずいた。 「近くにコンビニとかねぇかな? そしたら道とか聞けるんだけどな」 「えー、ないんじゃない。こんな山の中にコンビニなんて」 「そっかぁ? 案外あんじゃねーの。結構、ビックリするような場所にあったりすんじゃんよ」  そんな事を話しているうちにも、車はどんどん山の中へ入って行く。  CDの音量を上げ、山道を青白いライトの光で照らしながら快調に車は走った。まるでハンドルを握る男の気持ちが、車そのものを動かしているようだ。  音楽に合わせて小刻みにハンドルを指で叩く男の視界に、小さな灯が飛び込んできた。 「あ、あれってコンビニじゃね?」  見れば確かに、コンビニエンスストアの看板だ。聞いた事のない店の名前だが、町中に良く見かけるコンビニチェーンとは縁のない、個人経営の店なのだろう。 「あそこで道聞くついでに、何か買って行こうぜ」  ウインカーを出し、駐車場へ向けてハンドルを切ると、シートベルトに手をかけながら女もホッとしたように口を開いた。
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