第1章

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「何言ってんだよ。せっかく教えてもらったんだろ? ちょっと行くだけだからさ。見るだけ見たら、帰るよ。それでいいだろう?」 「本当に? ちょっと行くだけだからね……」 「ああ、分かってるって」  本当に分かっているのかいないのか。  女はアクセルを踏み込む男を横目で見ると、ため息を紅茶と一緒に飲み込んだ。  車は再び夜の山道にヘッドライトを輝かせながら走り出した。  相変わらず、対向車は来ない。 「さっきのコンビニだけど、こんな何もない場所で営業してて良くやっていけるわね」  変わり映えのしない窓の外の景色を眺めながら、女は先刻立ち寄ったコンビニの話を始めた。 「お客さんなんて、来るのかしら?」  フンフンとBGMに合わせて鼻唄を歌っていた男も、その言葉に反応した。  助手席の方へチラリと視線を流し、女の機嫌を伺うように言葉を発した。 「んー。でも、隣町へ向かうトラックの運ちゃんとか、案外利用するヤツっているんじゃねぇの?」 「そっかなぁ」 「夜中に一般の車で来るヤツがいないだけだろ? 俺達が知らなかっただけで、配送やってる連中には知られてる店かもよ」  会話をしている二人の前に、山を下って行く道と、それとは別に更に山の奥へ入って行く道とが現れた。 「ここだな」  教えられた通りにウインカーを出し、山の中へ続く道を選ぶ。  かろうじて山道を照らしていた街灯の光も途切れ、ただ月光とヘッドライトだけが行く先を示してくれる。 「やっぱり、やめようよ。何だか良くない気がするし。ねえ、帰ろう、ねえってば」  深夜の山道、しかも灯りもない暗闇の中を進むにつれ、女の心に不安が押し寄せてきたのだろう。しきりと先へ行くのを嫌がった。 「ここまで来て、そんな事言うなよ。もう少しで着くんだし、行ってみるだけだって言ってんじゃん」  男は内心で舌打ちしながら、女の様子を伺った。 「だって嫌な気がするのよ。行きたくないわ。うまく言えないけど、行っちゃいけないって思うの。お願い、帰りましょう」  きっと、ドライブに飽きて帰ろうと言っているのだろう。そう考えた男の予想に反して、女は本気で嫌がっているようだった。  中身の残った紅茶のペットボトルに口をつけようともせず、青い顔をして肩を抱いている。 「一体、どうしたってんだよ」
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