第1章

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 幸いなことに車は小回りの利く軽自動車、他に車が来なければ、数回ハンドルを切るだけでUターン出来るだろう。  気持ちが『心霊スポット』に行く事だけに向いていたので分からなかったが、ガードレールすれすれまで近寄ると、その外は崖になっているのが見てとれた。  さほど標高のない山とは言え、けっこうな高さだ。車ごと落ちれば無事では済むまい。  時間と手間はかかるが、安全を考えて慎重にハンドルを操り、車はUターンを完了した。  元来た道を辿り始めた車内で、女は心から安心したように大きく息を吐き出した。 「ありがとう。ごめんね、わがまま言って」 「もう、いいって。行ったって楽しめねぇんじゃ、あんま意味ねぇし」  分かれ道まで戻り、自宅のある方へと曲がる。  しばらくの間は、何となく気まずい雰囲気が車内を漂う。そんな空気を断ち切るように、男がことさらに明るく言葉を発した。 「しかし、あれだな。いい加減こんな時間だと、腹減らねぇ?」  言われて時計を確認すれば、デジタル表示は深夜二時近い。 「そうだね。でも、この時間じゃ開いているお店なんて、ないんじゃない?」 「だなぁ……」  自宅付近まで帰ればファミレスもあるが、これからだと店に着くのは三時頃になってしまう。 「うーん、これ以上遅くなってから食べると太るよね、やっぱり」  ようやく、二人の間にあった空気が、いつもの「日常」に戻った気がした。他愛のない会話のおかげで、女の顔にも落ち着きが見える。 「なら、さっきのコンビニに寄って、何か軽くつまめそうなモンでも買うか?」 「そうだね。今から開いてるお店探すのも面倒だし。そうしよっか」  おにぎりでも菓子パンでもサンドイッチでも、二、三個買い込んで車の中で食べれば、家に帰り着くまでのつなぎになるだろうし、腹もそれなりに満たされる。  男と女は笑いながら言葉を交わし、ほんの三十分程前に立ち寄ったコンビニの灯りを探した。  だが、見覚えのある場所までやって来ても、肝心のコンビニの看板は見えてこなかった。 「あれぇ? この辺だよなぁ?」 「うん、確か、この辺りだと思うけど」 「通り過ぎたとか?」 「それはないんじゃない? だって、あの木の所にある標識、コンビニ出てから見たの覚えてるし……」
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