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カラカラに乾いた口の中に貼り付いた舌を懸命に動かし、男が答えた。視線を移して運転席側のドリンクホルダーを見れば、自分で買ったはずの缶コーヒーが収まっている。
「──ぐぅっ!」
思わず口を押さえる。
ホルダーに入っていたのは、パッケージ│塗装≪とそう≫も│剥≪は≫がれ、むき出しになった地に│錆≪さび≫が浮き、飲み口などは│腐食≪ふしょく≫によって変色し朽ち果ててしまった……空缶の残骸だった。
「げえぇっ!」
堪え切れずに、胃の中の物を吐き出す。助手席側からも、女の吐いている声と音が聞えた。
あらかた腹の中にあった物を出してしまうと、男は口元を拭って体を起こした。震える手を伸ばし、ホルダーの空缶をつかみ出す。その何とも言えぬブカブカした感触に、全身に鳥肌が立つ。気持ち悪さに耐え、手にした缶を投げ捨てた。
「そんな──そんな気持ち悪いモン、捨てちまえ!」
体を二つに折っ荒い息をついていた女は、男のその言葉にカクカクと首を振った。穢らわしいモノに触れるように恐る恐る手を伸ばし、しかし最後の数センチを残して止まってしまった。
「早くしろっ! 捨てんだよ!」
「でも──だって──」
「早くっ!!」
男の叫びに、女は目を閉じて大きく息を吸い込み、一気にペットボトルをホルダーから抜き取り、闇の中へ投げ捨てた。
「よしっ! 行くからな!」
力を籠めてドアを閉めると、ライトを点ける。その光の中に浮かび上がったのは──。
「もう、お帰りですか?」
見覚えのある制服のジャケット。うつむき加減の青白い顔。生気のない低い声。
あまりの事に、すでに声を出すことも出来ない二人の前に立っているのは、コンビニで『心霊スポット』への道を教えたあの店員だ。
「ああ、せっかく教えて差し上げたのに、目的の場所まで行かれなかったんですね? 残念だなぁ。あなた方なら、と思ったんですが」
うつむいた店員の口元が、不吉に歪む。いや違う。笑ったのか? 嘲笑ったのだ。
「なんだよ、コイツ。何、言ってんだよ?」
全身を走る震えが止まらない。気持ちの悪い汗が噴き出して来る。
「あなた方がね」
ヘッドライトの光の輪ギリギリの所に、何かがいる。その正体が何であるかなど、知りたくもない。
「仲間になって下されば」
ギシッと車体が鳴った気がした。ペタペタと窓ガラスに触れる音がする。
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