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積み上げられた在庫の段ボールに背中を預け、俺は荒い息をついた。
今のは何だ? 一体、何がどうなっているんだ? 誰が店の中を歩き回っているんだ?
バクバクと暴れている心臓と呼吸を落ち着かせようと試みる。
客は誰もいなかった。それは確かだ。大きな店舗ではない。たかだか、コンビニの店内だ。人がいれば、目に付くはずだ。
もしかして、棚の間、通路に隠れていたのか? しゃがみ込んでいたとすれば……そして、身を屈めたまま移動していたとすれば、それなら、俺の視界に入らないと言う事も、可能かも知れない。
何のためにそんな事をするのかは知らないが、絶対にあり得ないとは言い切れない。いたずらして、俺を驚かそうとしたのかも。
そう考え付くと、今度は腹の底から怒りが涌き上がってきた。
隠れていた誰かは、慌てふためく俺の姿を見て笑っていたに違いない。さぞかし、面白い見せ物だったろうよ!
俺の視界の端に、店内の様子を映し続けているモニターが入った。そうだ、これなら。
あれから対人センサーの音はしていない。だとしたら、俺をハメようとした誰かはまだ、店の中にいるって事だ。
くそっ! どこのどいつだ? 面、見てやる!
無機質なスチール机の上に置かれた、平面な箱。淡々と店内の様子を映し出しているその画面に、俺は張り付いた。
レジ前、雑誌コーナー、ドリンクコーナーと視線を移す。
どこだ? どこにいる? どこに隠れた?
ふと違和感を覚えて、目を凝らす。アイスのケースの陰だ。見ていると、何かが動いているような気がする。
そこか。そこに隠れているのか。
事務所から飛び出そうとした俺の目の前で、アイスケースの陰にいた何モノかが大きく動いた。
よし、顔を見てやる。出て来い!
モニターの前で、俺は両手を握り締めて待った。
もぞり……
と、ソレが動く。
ずぞり……
と、モニター越しでも音が聞こえてきそうな動きで、ケースの陰から姿を現した。
「──う……ぁ……」
思わず、声がもれる。
店の通路を這いずっているアレは……。
女、だ。年は俺と大して変らないだろう。四つん這いになって、ズルズルと体を引きずっている。
長い髪はざんばらで、影になった表情までは読み取れない。所々破れた服は、土にまみれ、血液らしき染みで汚れている。その先からのぞく両足、あり得ない角度に折れ曲がり、どす黒く変色している。
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