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あの状態では立ち上がる事はおろか、わずかな重みですらかけられはしないだろう。
乱れた前髪で隠された目は、どこを、何を見ているのか分からない。
アレが……アレが、さっきの音と気配の正体。
だめだ──。頭のどこかで警報が鳴り響いている。このまま、アレを見ているのは、良くない。
俺の体から切り離されてしまったかのように、必死に警告を発している意識。だがそれに反して、身体は縫い止められているように動かす事が出来ずにいた。
モニターから目を逸らす事が出来ない。息をひそめて、画面に見入る。
床の上を這い回っていたモノが、ふと動きを停めた。何かに気付いたように顔を挙げる。店内に設置された四つのカメラ。長い前髪の奥にある目は、そのうちの一つを見ている。
こちらからその表情をうかがう知る事は出来ないが、アレの目は間違いなく、このカメラを捉えている。俺が見ている、このカメラを。
ずぞっ……
と女が動いた。先程までの緩慢な動きではない。明らかに目指す何かを発見したモノの動きだ。
ぞぞぞぞ……
両足が使えないとは思えない速さで床の上を進み、カメラのフレームから消えた。
どこだ? どこに行った? また、棚の陰にでも隠れたのか?
慌てて画面のあちこちに視線をさまよわせていると、突然モニターにノイズが走った。
「おい、何だよ?」
モニターの乱れに、思わず声をあげ、壊れたテレビにするように両手でバンバンと叩く。
見たい訳ではない。目にしても不快になるだけだ。でも、見えなければ見えないで、ひどく不安になる。
乱れた画像に忙しなく視線をやりながら、モニターを叩き続けていると、始まった時と同じようにいきなり画面が戻った。
「あ──直った……」
ホッと息を吐く。そして気付く。
違う。さっきまで見ていた映像とは違う。通常なら、店内四つのカメラで撮影している映像を、四分割された画面で映し出している。
だが今、映し出されているのは──。アイスのケースから続く通路と商品棚。先程まで、あの女が映っていた画面。その画面だけが、モニターに大映しになっている。
何が起こっている? 分からない事が多過ぎる。分からない事だらけだ。
どうする事も出来ず、ただ呆然とモニターを見ているしかない俺の目に、動くものが入ってきた。
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