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画面の下から、細長い何かがせり上がってきている。粒子の粗い防犯カメラの画像の中でも、ソレの病的な白さは見て取れた。
血の気の全くない、青白い、まるで死人のような──指。何本かは、あらぬ方向へねじ曲がっているその指が、ゆっくりとモニター画面を這い上がって来る。それに続いて盛り上ってくる、黒い髪。
『……ネェ……』
耳の奥に、粘り付くような声が響いた。思わず耳を押さえて辺りを見回す。だが、部屋の中には俺しかいない。
『ネェ……聞コエテルデショ?』
聞き間違いじゃない。鼓膜の直前で発生したんじゃないかと思わせる、空気を震わせない声。耳から入り込んで脳内をかき回し、背骨に沿って冷たい空気が流れていくような、嫌な声。
治まっていたはずの鳥肌が、再び全身に広がっていくのが分かる。室内の温度が、グンッ、と下がった気がした。
『ネェ……アナタ……』
抑揚のない、不気味な声がまた聞こえる。と同時に、画面上にヌッと頭が現れた。
油気の抜けたバサバサの前髪の間から、表情のない眼がこちらを見ている。
「──っ!?」
血走った白目、灰色に濁った瞳。キロキロと動くソレが、息を飲んで立ちつくす俺を捉えた。ヤバイと思ったが、もう遅い。
『イィィィタアァァァァァ』
にたぁ、と笑った目が三日月のように細くなる。俺と女の視線がガッチリと絡み合う。
『アナタ、アタシト、オンナジ……』
カメラのレンズを引っかいているのだろうか、爪を立てて女の指先が動く。
『アタシト、オンナジヨゥ』
何が──何が同じだと言うんだ?
女の視線の呪縛から逃れられないまま、俺は頭の隅でわずかに考えた。少しでも気を抜くと、そのまま意識を持っていかれそうだ。とにかく、思考するんだ。脳裏に浮かぶ事柄に必死にしがみ付く。
『ドウシテ? ドウシテ、アタシヲ受ケ入レテクレナイノ? アタシトアナタハ、オンナジナノニ』
女の顔に嗤い以外の強い感情が表れた。苛立ちだ。
知った事か! 俺には、こんな奴と同列に扱われる心当たりなんか、ねぇぞ!
モニターの中から俺を睨み付けていた女の手が動く。カメラに顔を近付けたのか、画面一杯に女の濁った両目が映し出された。
『アタシトオンナジクセニ。ドウシテ、アナタハ生キテルノ? オカシイワ。ソンナノ、ズルイ。アタシトオンナジクセニ』
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