第二夜 金曜深夜のお客様

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 大学受験に失敗した俺は、人生の中で初めて挫折を知った。こう言うと、大概の人間は「何、大袈裟な事言ってくれちゃってんの」と呆れる。  まあ、確かにな。俺だって他の人間から同じような事聞いたら、絶対にそう思うけどな。けど、俺にとっては大袈裟でも何でもない。本当の事だ。  子供の頃から俺は、大方の事は努力しなくてもこなすことが出来た。勉強も運動も、特に苦労した記憶はない。テスト前にも復習などした事はなく、それでも人並以上の成績を維持してきた。  俺にとって「出来る」という事は「当たり前」だった。  そんなもんで、大学受験に際しても、他人のように予備校に通ったり参考書を買い漁ったり、机にしがみついて受験勉強をしたりする事はなかった訳で。  だって、そうだろ? これまで、そんなの必要なかったんだ。大学受験だからって、いつもの自分のスタイルを崩す事はなかった。その結果が──これだ。  友人達は「現役合格する方が珍しいんだよ」と、なぐさめにもならない言葉を口にした。だが、俺には分かってしまったんだ。そう言った友人が実は、腹の中で「ざまあみろ」と舌を出して嘲笑っているのが。  ああ、そうだよな。俺だって逆の立つ場だったら、きっとお前と同じように思っただろうよ。  浪人生活に入った俺を、両親も持て余したらしい。──いや、違うか。期待を見事に裏切った息子に対して、全ての興味をなくしたってトコか。  まあ、あんた達にとっちゃ「何でもソツなくこなす息子」が自慢だったんだろうしな。受験に失敗してウダウダと落ち込んでいる息子なんざ、道端の石コロ程度にしか感じないんだろうよ。  俺としても放っておいてもらった方が、気が楽だ。何のかんのと泣き言を聞かされるのも嫌だし、腫れ物に触るように顔色を窺われながら生活していくのも、堪らない。  親の興味はすでに妹に移っていたし、息苦しい空気の流れる家で暮らすのにも嫌気がさしていたから、思い切って俺は家を出る事に決めた。  どうせ大学に入ったら、一人暮らししようと思ってたからな。  両親は俺が家を出る事を、あっさり許してくれた。と言うよりも、俺が何をしようがどうでもいいらしい。
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