第二夜 金曜深夜のお客様

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 さして多くもない荷物をまとめ、俺は長年住んだ家を出た。特に何の感慨も湧かない。重い空気の流れる家から解放され、ようやく新鮮な酸素を深く吸い込んだ気分。強いて言うなら、そんなトコロか。  そんなこんなで、この町に引っ越して来てから三ヶ月程が経過していた。  最初の二ヶ月は何をする気もせず、思い出したように引っ越しの荷物を片付け、ただダラダラと過ごしていた。  新居に選んだ安アパートの外に出るのは、食事をする時と細々したモノを買い出しに行く時だけ。コリャ、俗に言う「ひきこもり」ってヤツか?  まあ、そんな生活が長続きするはずもない。第一、生活するための金がない。  実家にいる時は親の金で暮らしていけたからな。ひきこもって暮らすにも、先立つモノがなければ、いかんともしがたいと言うことか。  三ヶ月目に入ると手持ちの金も、そろそろ底を尽き始めた。さすがに、ヤバいか。  そう思っていた矢先、弁当を買うために良く利用するコンビニが夜間バイト募集の貼り紙を出しているのに気が付いた。  元々が夜型人間だから、夜中に起きているのは苦にならない。学生と違って昼間学校へ行く必要がないから、その間タップリと睡眠を摂る事が出来る。  うちからも歩いて通える場所だし、条件はバッチリだ。  早速、顔見知りになっていた店長に話をつけ、翌日の午後に面接を受ける事になった。店で食事用の弁当と履歴書を購入して帰宅する。写真は確か、受験の時に撮影したバストショットがあるはずだ。  翌日の午後二時、約束通りに面接に出向いた。店員に話をすると、店長が待っていると事務所に通される。  コンビニの事務所って、結構、狭いのな。それなりにスペースはあるんだろうけど、ファイルの納められた棚やら在庫やらで占められているので、見た目以上に狭く感じるのかも知れないな。 「失礼します。よろしくお願いします」  発注作業の途中だったのか、俺の方へ視線だけを動かした店長は「そこに座って、ちょっと待っててくれ」と告げた。  物珍しさも手伝って、俺は事務所内をキョロキョロと見回しながら、店長の隣にある椅子に腰掛けた。  ふと目をやると、机の上には防犯カメラのモニターが置かれ店内の様子を映し出している。  へえー、こんな風に店内を見てる訳か。
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