第三夜 非正規雇用社員

2/10
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 うちのコンビニには、店員の誰もが知っている「非正規雇用社員」がいる。  と言っても、不正に雇用している訳じゃないから安心して欲しい。  もちろん「非正規」であるから、給料なんかは払っていない。まあ、うちとしては大いに助かっているんだし、給料を払うぐらい何て事はないんだが。でも金をもらっても、使い道はないかもなぁ。  多くのスーパーやデパートが抱えている悩みを、同じくコンビニも共有している。 『万引き』  スリルを感じるゲームだと思っているヤツや、数百円を惜しむヤツ、本気で生活に困っているならまだしも、金をちゃんと持っているのに支払わないんだから嫌になる。 『万引き』なんて言うから、軽い気持ちでやるんだ。覚えとけよ、『万引き』はれっきとした『窃盗』で犯罪なんだからな。それで潰れる店だってある。ホント、堪ったモンじゃねーよ。  しかも最近では、店の備品まで盗んで行くヤツがいる。トイレットペーパーとか、ゴッソリだぞ。信じられるか?  けど、どんな時に大いに力を発揮してくれるのが、うちの店の「非正規雇用社員」なんだ。  警備員? いや、そんなんじゃないよ。ん? 違う、違う。  うちにいる「非正規雇用社員」はな、生きてる人間じゃないんだ。『幽霊』だよ。は? ふざけてるのかって? うーん、そう思うのも無理はないよなぁ。自分だって、最初はそうだったし。  まあ、そんな力一杯不信そうな顔しないでさ、ちょいと俺の話に付き合ってよ。  俺がこのコンビニに店長としてやって来たのは、二年ちょっと前ぐらい。  引き継ぎの時に、前任の店長が俺にそっと耳打ちしてきたんだ。 「驚くといけないから、先に言っておくよ。ここの店はね、『出る』から」 「は? 何がですか?」 「だから……コレ、がね」  前任者はそう言って、両手を胸の前でダラリと垂らして見せた。 「ちょっと、やめて下さいよ。俺、そういうの苦手なんですから」  眉間にシワを刻んだ俺に、彼はいたずらっぽく笑う。 「大丈夫だよ。店の人間に悪さしたりはしないから。お金くすねたりするような、不心得者でない限りね」  いや、からかわれているのかと思ったよ、一瞬。第一、『出る』コンビニって何なんだよって感じじゃないか?  でも、店に出るようになって、その言葉の意味が良く分かった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!