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うちのコンビニには、店員の誰もが知っている「非正規雇用社員」がいる。
と言っても、不正に雇用している訳じゃないから安心して欲しい。
もちろん「非正規」であるから、給料なんかは払っていない。まあ、うちとしては大いに助かっているんだし、給料を払うぐらい何て事はないんだが。でも金をもらっても、使い道はないかもなぁ。
多くのスーパーやデパートが抱えている悩みを、同じくコンビニも共有している。
『万引き』
スリルを感じるゲームだと思っているヤツや、数百円を惜しむヤツ、本気で生活に困っているならまだしも、金をちゃんと持っているのに支払わないんだから嫌になる。
『万引き』なんて言うから、軽い気持ちでやるんだ。覚えとけよ、『万引き』はれっきとした『窃盗』で犯罪なんだからな。それで潰れる店だってある。ホント、堪ったモンじゃねーよ。
しかも最近では、店の備品まで盗んで行くヤツがいる。トイレットペーパーとか、ゴッソリだぞ。信じられるか?
けど、どんな時に大いに力を発揮してくれるのが、うちの店の「非正規雇用社員」なんだ。
警備員? いや、そんなんじゃないよ。ん? 違う、違う。
うちにいる「非正規雇用社員」はな、生きてる人間じゃないんだ。『幽霊』だよ。は? ふざけてるのかって? うーん、そう思うのも無理はないよなぁ。自分だって、最初はそうだったし。
まあ、そんな力一杯不信そうな顔しないでさ、ちょいと俺の話に付き合ってよ。
俺がこのコンビニに店長としてやって来たのは、二年ちょっと前ぐらい。
引き継ぎの時に、前任の店長が俺にそっと耳打ちしてきたんだ。
「驚くといけないから、先に言っておくよ。ここの店はね、『出る』から」
「は? 何がですか?」
「だから……コレ、がね」
前任者はそう言って、両手を胸の前でダラリと垂らして見せた。
「ちょっと、やめて下さいよ。俺、そういうの苦手なんですから」
眉間にシワを刻んだ俺に、彼はいたずらっぽく笑う。
「大丈夫だよ。店の人間に悪さしたりはしないから。お金くすねたりするような、不心得者でない限りね」
いや、からかわれているのかと思ったよ、一瞬。第一、『出る』コンビニって何なんだよって感じじゃないか?
でも、店に出るようになって、その言葉の意味が良く分かった。
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