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階段を上がってすぐのドア。以前まで僕が使っていた部屋だけど、今は不用品が詰め込まれ、物置きとして利用されている。廊下を挟んだ向かいに母の部屋。そして廊下のドン詰まり。一番奥に兄貴夫婦の部屋がある。
ドアを開けて立ち止まる。いくら兄貴の許可をもらったとは言え、そして、いくらベッドは個々の物とは言え、やっぱり人様夫婦の部屋で横になるのは気が引けるかな。
大判のケットを一枚借りると、久し振りに自分の部屋へ入ってみた。家を出る時に置いて行った僕の荷物が、そのままになっている。思った程埃っぽく感じないのは、窓を開けて空気の入れ替えをしてくれているからだろうか。
兄貴の部屋にあったソファが、壁際に置いてある。その傍には、僕が残して行った本棚が。目に付いた一冊を抜き出してソファに転がる。
やっぱり落ち着くな。
本のページをめくりながら、窓を叩く雨音を聞いているうちに、うとうとと眠りに引き込まれてしまった。
───
──
─
真っ暗な空間に僕は立っている。──否、座っているのか? 良く分からない。何も見えない。どこまで広がっているのか知る事も出来ない、そんな闇の空間に僕はいる。
方向感覚も正常に働かないのだろうか。自分が今、上を向いているのか下を向いているのか、それとも横たわっているのか。それすら定かではない。
視力が効かないからだろうか。聴覚が敏感になっているようだ。無意識に周囲の音を拾おうと集中している。
──。
僕の耳が、小さな音を捕えた。細い音が途切れる事なく続いている。
何の音だ? すごく聞き慣れている気がする。それでいて、日常生活の中で意識に上がってくる事は薄い。そんな音だ。
僕がその音に気付いたからだろうか。急に耳に届く音が大きくなった気がする。
これは──この音は、川だ。
闇は音を吸収するのだろうか。それとも反響させるのだろうか。
流れる、流れる、川の音。水の音。……の音。
何の音だって? 僕は自分の思考に疑問を投げかける。川の音以外に何が聞こえたって言うんだ?
音の正体が知りたくて、全神経を耳に集中させる。
間断なく流れる水の音。その音に紛れて、確かに聞こえる。
湿った重たい物体を引きずるみたいな音。濡れた柔らかい物体を打ちつけるみたいな音。そして周囲に満ちる濃厚な気配。
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