第四夜 明け方、四分間のタブー

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 僕が以前働いていたコンビニでの話。  そこのコンビニには、いくつか不思議な決まり事があった。 「夕方五時以降は店の前に水をまいてはいけない」だとか、「トイレの鏡の前に花を飾ってはいけない」「雨の日の傘立ては店の中、ドアのすぐ脇に置く」「フロアマットは常に乾いた物を使う事」だとかの、水や雨に関係している事が多かったように思う。  他の店舗ではこんな話聞いた事がないから、僕が勤めていたコンビニが特別なんだろうな。  中でも特に不思議だったのが、コレ。 『午前四時四十四分からの四分間は、店のドアを絶対に開けてはいけない』  明け方の四時四十四分から四十八分までなんていう半端な時間、絶対に店のドアを開けちゃいけないと決められていたんだ。  これって、おかしいだろ?  川沿いにある、住宅街の中のコンビニとは言え、早朝の利用客がいない訳じゃない。少し離れてはいるけど、バイパスだって通ってる。配送の車だって来るだろうに。  でも僕が受け持っていたのは休日の昼間だったから、明け方のタブーなんて関係なかった。 「へー。そんな変な決まり事があるんだ」  その程度の認識で済んでいた話だったんだけど。 「安西さん、来週の日曜日の夜って、何か予定入ってるかなぁ?」  バイト仲間の中條君から電話があったのは、火曜日の夕方だった。  大学の講義が終わり、図書館で調べ物をしていると携帯が震えて着信を知らせる。  慌てて図書館を出ると、携帯を耳に当てた。 「あ、もしもし、安西さん?」 「もしもし、中條さん? どうしたんですか? 珍しいですね、中條さんから電話なんて」  彼とはそう親しい訳ではなかったけど、何回か顔を合わせた事があった。──でも、携帯の番号、教えたっけ? 「急に電話して、悪い。来週の日曜日、俺、夜番なんだけどさ。どうしても外せない用が出来ちゃって。店長に掛け合ったら、代わりに出てくれる人がいるなら、休んでもいいって言われてさ。他のメンバーにも連絡したんだけど、皆ダメなんだよ。で、安西さんと同じシフトの森本さんに頼んで番号教えてもらったんだ」  勝手に携帯番号調べて悪かった、と電話の向こうで中條さんが謝る。 「ああ、いいですよ。気にしないで下さい」  そう言いながら、僕は思い出していた。  そっか、森本さんか。確か前に、映画のチケットの事で番号教えたんだっけ。
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