第四夜 明け方、四分間のタブー

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 ちょうど川の流れが澱んで水が濁るみたいに、この町の風も澱んで濁っている。僕が住んでいるのは、そんな町だ。  コンビニのある場所は、│暗渠≪あんきょ≫になった川が地面にもぐり込むちょうど入口の部分にある。地下で緩やかにカーブを描き、少し離れた線路沿いに顔を出す。  元々この辺りは一時的に水深が深くなっているうえに、左手に向かってカーブしている場所だった。そのせいなのか、上流から勢いをつけて流れてきた水がこのカーブでスピードを失い、澱む。  昔は長雨のたびに増水して大変だったと、土地に住む年寄りは良く言っていた。  いつもより早い時期に発生した季節外れの台風のせいで、二、三日前から天気がグズつき始め、町は常より更に濃い湿度の底に沈んでいるように思えた。  中條さんと約束をしていた日曜日も、朝からどんよりとした厚い雲が垂れこめ、ジットリと不快な空気が漂っている。  たまに時間が出来て、溜まっている汚れ物を片付けようとするとコレだ。仕方がない。こんなに湿度の高い日に部屋干しなんて、御免こうむりたい。  僕は汚れた衣類をバッグに詰め込むと、自転車で実家に向かう。コインランドリーに行くよりも近いし、何より金がかからない。浴室乾燥を使わせてもらって、ついでにゆっくりしてこようか。  実家までは自転車で三十分程度、日頃運動不足を自覚している僕にはいい運動かも知れない。  大学進学を機に一人暮らしを始めた訳なんだけど、別に通学に便が悪かった訳じゃない。ちょうど同じ頃に四つ年上の兄貴が結婚し、実家で母親と一緒に暮らす事になったからだ。  父親は高校二年の時に他界し、それからは母が一人で僕達兄弟の世話をしてくれていた。幸い父親が残してくれた生命保険があったし、高卒で既に社会に出ていた兄の勧めもあって、僕は大学進学を決めた。  学生時代から付き合っていた彼女との結婚が決まった時、母は二人に新居を構える事を提案したんだけど、兄貴と彼女のたっての願いで同居する話でまとまった。  んで、僕はと言うと。  さすがに新婚夫婦と一つ屋根の下で生活するってのは……ねえ? 僕だって一応は年頃の男性なんだからさ。  以上の理由から実家を出て、一人暮らしをしている。それでも一、二ヶ月に一度は顔を出して、夕飯をごちそうになったりする。 「うあ、ヤバ。降って来た」
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