第四夜 明け方、四分間のタブー

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 義姉は余程、暇を持て余していたんだろう。最近のドラマから映画の話まで途切れる事がない。  そうこうしているうちに、洗濯終了を知らせるメロディが聞こえてきた。 「ちょっと行ってきます」  少しホッとして脱衣所へ行き、洗濯物を入れたカゴを抱えた時、玄関でドアの開く音がした。 「ただいまー。あら、誰か来てるの?」 「お義母さん、お帰りなさい。少し前に浩幸君が」 「へえ、珍しいわね、日曜日に」  そんな会話を耳にして、僕は思わず苦笑する。この家では、日曜の昼間に僕がいるのは珍しい事らしい。  洗濯物を片付け、カゴを所定の位置へ戻してリビングへ。 「お邪魔してるよ、母さん」  テーブルの上に買い物袋を置いて戦利品を広げていた母に声をかけた。 「どうしたのよ、急に」 「今日のシフト、夜番の知り合いと代わったんだよ。久し振りに時間も出来たし、溜まってた汚れ物を洗濯しようと思ったんだけどさぁ。そう言う時に限ってこの天気だろ? 僕の部屋じゃ干すスペースもないし、浴室乾燥使わせてもらおうと思って」 「あらぁ。じゃあ、使用料取らなきゃね」 「お義母さん、そんな事言うと、浩幸君本気にしちゃいますよ」  冗談よ、あはははは。と軽快に笑う母親を見ながら、僕は内心「半分は本気だったな」と考えた。  夜までゆっくり出来る事を知ると、じゃあ夕食は一緒に食べられるのね、沢山作らなきゃ、と母は嬉しそうだ。義姉さんと二人で台所に並び、ああでもない、こうでもないと話をしている。  我が家では、世に言う「嫁・姑問題」は縁遠いモノなのかも知れない。  まだまだ自分の健康に自信のある母は、以前から勤めているパートを続け、時間のある日は趣味のサークルにと忙しい。いい加減、パートを辞めて家でゆっくりしたらどうだと言ったら、笑顔で即却下された。 『一つの台所に二人の主婦は争いの元なのよ。今は私も元気なんだし、涼子さんも好きな事をすればいいの。先の事は分からないけど、今はこのままでうまく行ってるんだから』  それが母の言い分で、僕には考えも及ばない様々な事を思ってるんだと知った。  やがて兄貴も帰宅し、久々に家族勢揃いだ。  出された菓子をつまみながら、兄貴と大学の話やらバイトの話やらで盛り上がる。 「そう言えば、あんたのバイトしてるコンビニって、あの川の傍なんだっけ?」  濡れた手をタオルで拭いながら、母親が話に入って来る。
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