第四夜 明け方、四分間のタブー

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「そうそう、聞いた事ある。雨に呼ばれて死んだ人達がやって来るから、出歩かない方がいいって」  オカルトやホラーに関しては全く興味のなかった僕にとって、始めて耳にする話だ。と言うより、自分の家族がこの手の話を目を輝かせて語る人種だった事に驚きだ。 「おばあちゃんが川向こうに住んでいたけど、子供の頃、良く怒られたわ。雨の日に使った傘を玄関先に置いておいたら、『家の前に雨を呼ぶ物を置くと、ガモウジャがやって来るからやめなさい』って。でも今でも分からないの。『ガモウジャ』って何?」  義姉が兄貴に尋ねるが、あいにく兄貴も知らないらしい。僕も知らない。で、三人揃って母親を見る。  コーヒーカップを両手で包み、ゆっくりと中身を口に運んでいた母が肩をすくめる。 「あんた達ねぇ。オカルトネタもいいけど、自分達の住んでる土地の事なんだから、もう。『ガモウジャ』ってのは『川亡者』の意味よ。川の事故や水害で亡くなった人の事で、『カワモウジャ』が縮まって『ガモウジャ』になったの」 「じゃあ『雨を呼ぶ物を置くな』って言うのは、どういう意味なんですか?」  義姉の質問に、母は窓の外で降り続ける雨をチラリと見た。 「ここに昔から住んでいる人なんかは言うわねぇ。濡れた傘や雨水の溜まったバケツなんかを置いておくと、その水が『ガモウジャ』を呼ぶと思われたの。ほら、霊とかって水気のある湿った場所に出るって言うじゃない。だから、出来るだけ水気のある物を家の周りに置かないようにしてるのよ」  母親の話を聞いていて、僕はコンビニの事を思い出した。 『雨の日の傘立ては、店の外ではなく店内に置く事』  以前から不思議には感じていたけど、土台にはそういう事があったのか。なら、他の奇妙なルールにも似たような│謂≪いわ≫れがあるのかも知れないな。 「浩幸は徹夜になるんだろ? 俺のベッド使っていいから、夜まで眠っておけよ」  僕が使っていたカップを持ち上げ、兄貴が笑いながら軽く肩を叩いてくる。 「俺も経験あるけど、ちょっとでも眠っとかないと完徹はキツイぞ」  まあ、確かにな。普段は日中のバイトしかしてないから、体力的にも精神的にもキツイかもしれない。  せっかく兄貴がこう言ってくれているんだから、好意に甘えよう。 「うん、じゃあ、そうさせてもらうよ」  リビングにいる面々に声をかけると、僕は二階へ上がって行った。
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