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外したネクタイを缶ビールの横に放り出し、主人がボソリと呟く。
売り言葉に買い言葉というヤツだろう。だけど主人のその言葉を聞いた瞬間、私の中に怒りが湧き上がってきた。
責められるべきは、主人のはず。なのに何故、私の方がこんな事を言われなくてはならないのか。
「どこかの心理学者が言ってたけど、人の行動を疑うのは自分いにやましい気持ちがあるからなんですって」
明らかな敵意を籠めて、主人に嫌みをぶつける。私に反論されるなんて思ってもいなかったのだろう。グッと口唇を引き結んでソファから立ち上がる。
「夕食は? 簡単なもので良ければ作りますけど」
返事は分かっている。
「いらん。もう休む」
思った通りの言葉を残して、主人はリビングを出て行った。
いつもより大きな音を立てて閉まったリビングのドアを見つめ、私は佐山さんと過ごした楽しい気分が消え去っているのを感じていた。アルコールのもたらしてくれる酔いも、すっかり覚めてしまった。
今寝室へ向かっても、気まずい空気の中、主人と一緒にいなければならない。それに、こんなに気持ちが荒れていては眠れそうにない。
私は大きくため息をつくと
「──ストレスは、発散しないとね」
今夜は、どこのコンビニにしよう? 頭の中で周辺にあるコンビニを思い描きながら、流しの下に仕舞ってあった小さな袋を手に取る。
「新しいスイーツが出るって言ってたわよね、確か。あそこのお店にしようっと」
気分を落ち着かせるためなのか、それとも盛り上げるためなのか。自分でも良く分からないまま、口から飛び出す独り言が止まらない。
財布と袋をバッグに入れ、そっと玄関を出た。すっかり静まりかえった町の中を、自転車で走り抜ける。顔に当たる夜の風が心地よい。
うちから一番遠いコンビニの前に自転車を停めた。もう真夜中近いというのに、煌々と灯る明りが眩しい。夜道を帰る人にとって、この光は安心を与えてくれるものなのだろう。
店内には店員を含め、三、四人の姿が見える。私はそっと店先に並べられたゴミ箱に近付いた。
バッグの中に入れた指先が、カサコソと音を立てる袋に触れる。クシャクシャに丸めたソレを、様々なゴミ=不要品であふれかえる箱の口へ突っ込んだ。
『不要品』。そう、私には不要なモノ。必要のないモノ。私の中から湧き出してくる不要なモノを、私から切り離して捨てるのだ。
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