第五夜 家庭ゴミはご遠慮ください

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 両手両足を切り落とし、胴に針を刺し、首をもいだ。両目の部分をナイフでくり抜き、火の点いたタバコを押し当てる。生ゴミの腐汁をなすりつけ、犬のオモチャにさせた事も、早朝のゴミ置き場でカラスに突かせた事もある。  魂のない紙ねんどの人形が、それでも悲鳴をあげているみたいでスッとした。  佐山さんからの情報は、実際、とても役に立った。あからさまに隠そうとして、普通でない事をするから目立つのだ。なるべくさりげなく、その他のゴミ達と同じように捨てる。  この時に注意しなくてはいけないのは、まとめて出さない事。小分けにして少しずつ、何かのついでに捨てたと思わせるくらいの量で。  そうする事によって、捨てたモノの中身を探られるリスクも減るし、何より私自身が長く「ストレス発散」を続ける事が出来る。  このヒントを与えてくれた「深夜のゴミ捨て犯」には、本当に感謝している。顔も知らないどこかの誰かは、きっと私に似た人物なんじゃないかと、親近感すら覚える程だ。  自宅に帰り着き、リビングのソファでゆったりとくつろぐ。買ってきたばかりのスイーツをテーブルに置いて、しばらくの間目を閉じる。  あの女の分身と化した人形が、ゴミに紛れ、不要品と共に焼却される様子を思い描く。  油で汚れたお弁当の容器や、食べ残しのこびり付いたトレー、丸められたティッシュ、泥だらけの足跡や得体の知れないシミに覆われた雑誌、新聞紙の詰まった狭い箱の中にあの女はいる。  私にとってはゴミも同然。私の人生に必要のない存在であるところの、主人の不倫相手。肉体を傷付ける事は出来なくても、その魂を汚す方法はいくらでもある。  絶対に妊娠なんてさせてやるもんか。二人が幸せになるなんて、許さない。  黒い喜びを噛み締めながら目を開き、スイーツを一口含んでみる。チョコレートの甘さとココアパウダーの苦味が口の中で溶け合い、心地よい香りが広がる。  この楽しみだけは誰とも共有する事は出来ない。私だけのものだ。  ふと目をやれば、主人が放り出して行ったネクタイが。そして布地にからみつくようにして、私のものではない長い髪が。  お行儀悪くスプーンを口にくわえたまま、私はかすかにウェーブがかったソレをつまみ上げた。 「あらあら、これでまた人形の材料が増えたわね」  自分自身に向けて呟くと、指先で丸めてビニールの小袋に落とした。
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