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「…なんで、スマホが無い…」
駅に着いて連絡をしようと、ポケットをまさぐってから気付く。
いつもは上着の胸のポケットに入っている。
大抵、電車の中ではアプリのゲームをしていたりするから、スマホは手のなか。
しかし今日は珍しく座れて、昨日遅かったせいもあり、ゲームする訳でもなくうとうととしていた。
そして、気付いたら目的の駅。
そういや、スマホいじってねぇな。
もしかしたら、家に置いてきた?
いや、今日は連絡とれにゃ面倒なんだって。
「…どうすっかなー…」
ため息混じりに呟く。
えーっと、そういえばあいつの電話番号って確か…
持ってきた鞄を引っかき回す。
手帳…あった。
かなり前に書いてもらった(勝手にあいつが書いた)番号があったはず…。
「番号…変わってなかったよな」
パラパラページを捲り、目的の番号を探す。
あった。
汚い字で、名前と携帯の番号が書きなぐられている。
…ページいっぱいに。
あほか。
…まぁ、そのお陰?で、連絡が取れそうなんだが。
「…えっとー、公衆電話…は…」
ぐるりと見回す。
最近は携帯の普及で、公衆電話が少ないと言われているが、無い訳じゃない。
特に、駅の中にはちゃんとあるもんだ。
幸い、そう遠くない所に、何台かの公衆電話が並んでいるのが見えた。
「らっきー」
ほっと一息ついて、そちらに向かう。
公衆電話なんて、何年ぶりだろう。
小銭は…あるな。
俺は他に誰も使っていない電話に、小銭を放り込んで、手帳に書かれている番号を押す。
『Trrrr…Trrrr…』
何度めかのコールの後、電話が繋がる。
「おー、俺綾崎だけど」
…電話の向こう側の、返事が無い。
あれ?
「蒔田?俺、綾崎だけど、携帯忘れたみたいでよ」
聞こえないのかと思い、もう一度名乗る。
向こう、電波でも悪いのか?
とか思っていると
『…あの』
受話器の向こうから、お目当ての相手とは違う、ずいぶんと可愛い声が、聞こえた。
特徴のある少し甘い声。
柔らかな響きを持つ、優しい声、だと思う。
だが今は、警戒の色が濃くとれる。
うわ、間違えた!?
焦る俺。
ここであいつの女が…とか思わないのは、まぁ、相手があいつなら普通だろう。
「すみません!番号、間違えたみたいで…」
慌てて電話の相手に謝る。
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