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「あーやさきくーん♪」
彼女を収録スタジオの階まで案内し、別れた所で後ろから陽気な声がした。
無視してエレベーターに乗ろうとしたが、無駄だったようだ。
ガッチリと扉ホールドしてやがる…。
「…なんすか、中嶋さん」
声の主にため息まじりに言う。
彼は中嶋朔弥(なかしまさくや)さん、面倒見の良い先輩であり、面倒くさい先輩でもある。
いや、基本的にはいい人なんだけどね。
からかうことが生き甲斐みたいな所がある。
まぁ、他に言いふらしたりするような、嫌な人ではないけど。
「さっきのだれー?彼女ー?」
ニコニコ嬉しそうに聞いてくる。
「違いますよ、今度のプレイヤーさんで、マネージャーの姪っ子さんす。なんか、流れで一緒にメシ行っただけですよ」
流れで。
…まぁ、俺から誘ったんだけど。
ふーん、と中嶋さんは廊下の先を見つつ、
「ようやく綾崎くんにも春が来たと思ったのになぁ~」
そんな事を言う。
「なんすか、春って。今夏ですよ」
今度こそ、エレベーターに乗り込む。
…まぁ、中嶋さんも乗ってくるんだけど。
「かわいらしー彼女、できたらなぁ~って」
「俺だって、本気になれば彼女の一人や二人」
「ふーん」
いや、出来るよ?
受付のおねーちゃんの誘いで、今度は飲みに行くし。
俺、あんま飲めねぇけど。
別に彼女居ない歴=年齢ってわけじゃない。
それなりに遊ぶし、童貞でもねぇ。
何を言っているのやら、この人は。
「綾崎ってさー」
「…なんすか」
そこまで言って、中嶋さんはふむんと何かを考えていたが、
「ま、頑張って♪」
俺の肩をぽんぽんと叩いた。
何なんだよ?一体。
その後、じゃーねーといって収録に戻って行った中嶋さんと入れ違いに、蒔田に会う。
蒔田は特に何かを言うわけでなく、「夕方までゲーセン行こうぜ」と言っただけだった。
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