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「…で、遅れた」
ようやく連絡がつき、待ち合わせ相手に会うことができた。
遅くなった言い訳…というか、事の顛末を話す。
…まぁ、元はこいつの字が汚いから悪いのだが。
俺は悪く(略)
こいつは蒔田京葉(まきたけいよう)、仕事の同期であり、同い年。
俺のやっている仕事は年齢層が様々だ。
同い年でしかも同期となると、出会うことが稀。
それでいて趣味も同じとなると、必然的に仕事以外でも一緒に居ることが多い。
俺はちょっと特殊な仕事、『声優』を生業としている。
綾崎遠矢(あやさきとおや)、現在26歳、まだまだ若いと信じたい。
声優の仕事を始めてそろそろ5年になるだろうか。
今では有難い事に、何とか声優の仕事だけで食べていける。
好きな事で生活ができるのは、幸せな事だよな?
「まぁ、お前の字が汚いから、悪いんだけどな」
しれっと言う。
蒔田は「いやいやいや」とツッコミを入れる。
「元はと言えば、綾崎が携帯忘れるから、いけないんだろ」
…そうとも言えなくもないが。
「…まぁ、過ぎた事はいいとして!」
バンバンと蒔田の背中をたたく。
あ、ジト目でこっち見てる。
…
「…すまん、メシおごる」
素直に非を認める。取り引きを成立させ、二人で当初の目的の場所へと向かうのだった。
4月が始まったばかりの、夜の事。
あの時はこれから起こる事なんて、知りもしなかった。
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