出会い?

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それから三日後、顔合わせ兼打ち合わせがあった。 「はい、じゃあ詳細はこちらの方に書いてあるから。分からないことがあったら、連絡して」 とある小さな会議室。 収録の詳細を説明した後、マネージャーが告げる。 今ここに居るのは、うちのマネージャーと俺、そして姪っ子だという小さな女性、てか女の子。 今回はピアノバラードが中心の楽器なため、プレイヤーの打ち合わせは彼女のみ。他の楽器は、まとめて録るらしく、別での打ち合わせだった。 「うちの姪っ子だ。よろしく」 マネージャーが言った。 ぺこりとお辞儀をする彼女。 「じゃ、柚希はちょっと時間空いてからだけど、午後からよろしくな」 コクリ、と頷く彼女。 この後、彼女は午後から少し曲合わせをするらしい。 俺は、しばらく出番無し。夜から別の収録がある。 マネージャーも次の仕事があるらしく、簡単な紹介だけして、部屋を出て行き二人残される。 「…あの」 彼女がこちらに向かい直す。 ?と思っていると 「柊木柚希(ひいらぎゆずき)、です」 再びぺこりとお辞儀をする。 始まりがバタバタしていたため(主に俺の収録が延びたからだが)、挨拶出来なかったのが嫌だったのだろう。 真面目だなぁ 「綾崎遠矢っす。…」 よろしくー、と言おうとした時、何かが引っ掛かった。 彼女が『?』という顔で見ている。 そりゃ挨拶相手が言葉に詰まったら、変に思うよな。 「…あ、スミマセン、よろしくっす」 慌てて言葉を続ける。 不思議そうに見ていた彼女だったが 「よろしく、お願い、します」 そう言って、ほっとしたように片付けを始める。 「柊木サンは…」 ?という顔でこちらに顔を向ける彼女。 きょとんとした顔がかわい…いやいや 「プレイヤー沢山してんの?」 「いえ、すみません、初めてなんです…」 「なんで謝んの?」 「あの…もっと、熟練さんの方が、良かっただろうなって…」 申し訳なさそうに言う彼女。 「いやいや、俺もほら、初心者だし。よろしくお願いしますね」 慌ててフォローする。 俺だってそう大した大物でもねーよ。 彼女はふにゃっと笑って、はいっと答えた。 『どきん』 心臓が跳ねた。 そして、春のような柔らかい。 散ったばかりの桜が咲いたように、心の中に暖かい何かが、すとんと収まった気がした。 今まで感じた事の無い心臓の跳ねる音。
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