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あれは先週のこと。
生物の授業の終わりがけに後ろからプリントを回収するよう杉山に言われ、窓際最後尾に座る俺はめんどくせーと思いつつ立ち上がった。
前の席の奴からプリントを受け取り、続いてふわふわの黒髪に視線を向ける。
隣に立って手を差し出しても反応が無く、何こいつ寝てんの?と若干イラつく。
「沢月プリ…ン、ト…」
「あ…。」
しびれを切らし名前を読んだ俺の視界に予想外のものが映り、沢月の机を覗きこんだ格好のまま体が固まった。
裏返されたプリントにはA41枚分のスペースを惜しみ無く使った落書きが施されていて、沢月はそれを急いで消している最中のようだった。
ただほとんど消えておらず、どんなイラストが描かれているかは一目瞭然で。
それがただの落書きなら別にいいんだ。ノートの端に絵描いて提出の時に急いで消すとか、そういう経験学生なら少なくとも一度くらいあるんじゃないか?
でも、沢月の絵は、桁が違った。
落書きなんて言葉で言い表していいものじゃない。
繊細で滑らかな線。
花などの少女漫画的画面効果。
パースのとれた描き込まれた背景。
個性のあるキャラクター達の表情。
照明の方向に合わせてつけられた陰影。
柔らかそうな女の子の体。
オリジナリティのある可愛らしい衣装。
決して簡単とは言えない構図。
…これを、プリントが配られてから描いたのか?たった30分ちょっとの間に…?
あと、なんでこの真ん中にいる女子、顔が杉山なんだ…。
もう何を言えばいいか分からなくて、ただ沢月の顔を見つめるしかなかった。
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