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あれから
沢月が何故か半泣きになったり、クラス中の視線を集めたり、休み時間に友人から「さっきの何?」と口々に尋ねられたり、何だか色々あったけど、俺の頭の中にはあのイラストしか無くて。
五時間目、数学の授業中。
もちろん黒板に書かれた数字なんて全く入ってこず、ひたすら違うことに脳を働かせる。
俺が沢月の絵に衝撃を受けたのは、ただ絵が上手いからではなかった。
まず驚くべきは絵を仕上げるスピード。
沢月が必死になってイラストを消したシワだらけのプリントを受け取った時、さりげなく表を見ると、ちゃんと問題は解いてあった。
ということは30分どころかそれ未満の時間で描いたことになる。確実に物凄い速さでペンを走らせたはずだ。それでも出来上がりはあくまで丁寧なものだった。
それにあいつ、きっと下書きはせず思い付くままに描いてる。
普通は体のバランスや背景の構成にはある程度の下書きが必要になるが、あの短時間で下書きをして仕上げるというのは不可能だから、恐らくほぼ一発描きだろう。
それであのクオリティ。
そしてアイディアの豊富さ。
凄いとしか言いようがない。
異常とも言えるスピードを持ち、それでいて雑にならず華やかな装飾まで施す。
とてつもない技術とセンスを持ち合わせていることは素人の俺にでもありありと理解出来た。
…ただ、俺を一番驚かせたのは、実はそのどちらでも無い。
( 一瞬、兄貴の絵かと思った……。 )
――沢月の絵は、少女漫画家である兄麟太郎の描く絵と同じ空気を持っていたのだ。
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