第一章

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「竜二くん?」  黙り込んでいると、松ヶ崎に名前を呼ばれた。ハッとして、噛み締めていた唇を開ける。  しっかりしろ、俺。 「すみません。えっと、それで」  竜二は続けた。 「もちろん、何処に泊まりに行ってるんだって話になったんですけど」 「うん」 「レイのやつ、毎回行き先を言うわけじゃなくって、正直俺もルイも知らなかったんです」 「じゃあ、今回も?」 「はい。母が出張に行く度、ほんとに毎度のことだったんで、俺たちも、進んで聞くわけじゃなかったし。  で、分からないって言ったら、母がまたキレて、レイに電話したんですけど電源切られてて。  仕方なく、ルイに、片っ端から心当たりに電話をかけさせて、でも、分かんなくて。  それで母がルイに、明日学校に行って、聞いてこいって言ったんです。ルイの責任だから、責任もって探して連れ帰れって」 「それで、瑠依さんは今日学校に行ってるんだね」  母親に、追い出されるように学校へ行った瑠依を思い出して、竜二は頷いた。 「なるほど。殺されてから三日経っても、捜索願とかが出されていないのはそういうわけか」 「……はい。母はプライドの高い人ですから、娘が何処かに遊びに行ったまま帰って来ないなんて、安易に触れ回りたくなかったんだと思います」  答えると、松ヶ崎は「そうか」と呟いて、今日初めて、目の前に置かれたコーヒーカップに手をつけた。  その動作に合わせて、竜二も自分のカップに手をつける。  この家を買ったときに、四人分のカップとソーサーを購入した、イタリアで有名なブランドのティーセット。  ほとんど使われることはなかったが、綺麗なこの食器を、麗依はとても気に入っていた。  そう思うといたたまれなくなった。  なんでレイが殺されなきゃならないんだよ。
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